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税理士事務所の未経験者は何から勉強すればいい?|税理士事務所の仕事の習得

未経験で税理士事務所に入ったとき、最初はあまりにわからないことが多すぎて、 何から学べば良いかすらわからなくなります。

また未経験の人の中でも、税理士試験に何科目か合格していたり、受験経験がある人と、まだ未学習の人では大きな違いがあります。

今回は「未経験で未学習の人」は何を学べば良いかを説明したいと思います。

「未経験で受験経験がある方」も、読んでいただければ参考になることはあると思います。

税理士事務所の未経験者は何から勉強すればいい?

基本用語と仕事の流れを知ろう

未学習の人は税理士事務所で会話に上がる言葉がわからない、というところが最初の壁になります。

「元帳を出して。」
「試算表を出して。」
「別表を銀行に送っておいて。」
「源泉の納付書を持ってきて。」などなど。

先輩もあまりに普段使い慣れ過ぎて、思わず専門用語であることを忘れて使ってしまいがちです。

勿論、仕事の中でわからない言葉が出てきたら、恥ずかしがらずに聞いてみることが大事です。

しかし、できれば入社前に下記のような本を読んでおいて、最低限の仕事の言葉は覚えておきたいところです。

会計事務所の仕事がわかる本』(須田 邦裕著 日本実業出版社)

 

この本以外にも税理士の仕事を説明する本は何冊か出版されています。

上記の本はいくつかある中で、もっとも実務の現場を丁寧に説明した本だと思っています。

この本が優れている点として、1年間の税理士事務所の仕事の流れの説明があります。

税理士事務所は、特定の時期にすべき0仕事と、時期に関係なくすべき仕事に分かれます。

たとえば、このような仕事は全顧問先に共通する、特定の時期にする仕事です。

  • 1月法定調書の提出、納期の特例の納付書作成、給与支払報告書の作成、償却資産税の申告書作成
  • 2月~3月個人の所得税確定申告
  • 7月納期の特例の納付書作成
  • 12月年末調整

今はまだ詳細な意味を分かる必要はありませんが、このように決まった時期に全顧問先に共通する仕事があると思っていただければOKです。

会計ソフトの入力と勘定科目

さて、多くの会計事務所では、未経験の人が入社すれば最初に会計ソフトへのデータ入力の仕事が任されます。

会計ソフトは、弥生会計やJLD、TKCなど何種類もありますが、使い方は大きくは変わりません。

普通にパソコンが使える人であれば使い方そのものに困ることはないでしょう。

それよりも困るのが資料の見方と勘定科目です。

例えば経費を入力する際には、レシートを見て「どの勘定科目になるのか?」を瞬時に判断しなければいけません。

そのためには簿記の知識が必須ですが、実は実務で出てくる勘定科目は、簿記1級や税理士試験で出てくるような難しい勘定科目ではないことが多いです。

勘定科目が何になるかについては、いろいろな本が出ていますので、手元に一冊置いておくと安心でしょう。

知りたいことがパッとわかる勘定科目と仕訳が見つかる本』(北川 真貴著 ソーテック社)

 

簿記も未学習という方は、簿記3級は就職前に合格しておきたいところです。

しっかり勉強すれば2週間程度で合格することが可能です。

さて会計ソフトへのデータ入力に話を戻します。

データ入力は「スピード早く、ミスをしないように」入力をしないといけません。

これは慣れも必要ですし集中力も必要ですが、自分の中で「少しでも早く、正確に」という意識を持ち続けることが大事です。

もちろん入力後には、ミスがないかを自己チェックします。

預金などの残高が合っているか、先月のデータを参考にして同じ勘定科目で処理ができているかなど、しっかりチェックしましょう。

先輩は入力の精度を見て、新人の方の仕事への適性やセンスを図っています。

 

税理士事務所の未経験者は何から勉強すればいい?

 

消費税と法人税

税金の知識で、早い段階から必要となるのが「消費税」と「法人税」の知識です。

とはいえ、税理士試験で出るような高度な知識は、まずは後回しで良いでしょう。

会計ソフトにデータ入力をするためには、消費税の基礎知識である「課税か非課税か不課税か」の判断が必要です。

実務では「課否判定」という言い方をします。

こういう本がありますので、お勧めしておきます。

消費税課否判定・軽減税率判定ハンドブック』(馬場則行著 清文社)

 

取引を勘定科目ごとに分類して、〇×で課税・非課税の判定が載ってます。

経験の浅い人がよく使っているバイブルの一冊です。

また「簡易課税」を選択している法人や個人がありますので、簡易課税とはどういう計算方法かも学んでおきましょう。

法人税については、税金の計算のプロセスの大枠を掴むことから始めてください。

会計で求めた利益から法人税の計算をするのですが、いろいろな書類を次から次へと飛び回って計算をしていきます。

会計の「税引後利益」の金額が、法人税の別表4に飛んで、その後別表1に飛んで・・・。

このように「会計」と「法人税」がどうつながっていくのかの大枠を知らないと、細部の論点から入っても全くわからないでしょう。

この本をお勧めしておきます。

STEP式 法人税申告書と決算書の作成手順』(杉田宗久著, 岡野敏明著 清文社)

 

法人税の大枠を掴んだ後は、法人税の規定の中で実務上、特に重要な下記の論点をマスターしましょう。

  • 別表4で加算するもの、減算するもの
  • 納税充当金と別表の関係
  • 役員報酬の決定や支給のルール
  • 繰越欠損金について
  • 交際費について
  • みなし役員について
  • 少額減価償却資産について
  • 減価償却資産の耐用年数について
  • 租税特別措置法の税額控除の規定について

法人税法の範囲は非常に広いです。

その中で上記の項目は実務で頻出する項目ですので、優先的にマスターしましょう。

個人的に避けた方が良いと思う勉強方法は、「法人税基本通達逐条解説」などの専門書を、はじめから最後まで丸丸一冊読むことです。

税理士試験の経験がある人であれば、専門書を最初から全部目を通すことで、実務と税理士試験の差を埋めることができるかもしれません。

しかし、未学習者が分厚い専門書を最初から全部読むことは、理解できないことが多すぎるのと、重要情報とそうでない情報に差をつけられないことから、非効率な学習となります。

税法の基本知識が身に付いた後に読むと、学びの多い本ですので、これらの本を読んで面白いと感じられるようになったときに、読んでみてください。

もし「体系的に全体像をつかみたい」という方がいらっしゃいましたら、下記の全経の法人税や消費税の試験をお勧めします。

公益社団法人 全国経理教育協会

法人税法能力検定
消費税法能力検定

 

全経の税法の試験は、税理士試験と比較するとかなり簡単な内容になっています。

実務で使う基本的な知識が網羅的に身に付き、検定用のテキストも市販されています。

税理士試験を将来的に受験したいと思っている方も、全体像を手早く掴むことができますので、こちらから挑戦するのが良いかと思います。

決算補助

月次会計に慣れてくると、先輩の決算の手伝いをすることになります。

この作業を決算補助と言います。

決算書は、1年間のその会社の成績表であると同時に、税務署が税務調査をしたり、銀行が融資査定に使う非常に重要な書類です。

税理士のメイン業務と言っても過言ではありません。

いずれは1人で決算書を作ることになりますので、先輩の決算補助の仕事をしながら、次から自分1人でできるかをイメージしながら進めましょう。

決算は大きく説明しますと、下記のような流れです。

  1. 月次の会計を1年間通して見直す。
  2. 決算修正(減価償却の計上や売掛金の帳端の集計など)
  3. 勘定科目内訳書の作成
  4. 法人税申告書(別表)の作成
  5. 消費税申告書の作成

先輩から最初は、上記の中の一部分を任されると思います。

その指示を聞きながら、決算の全体像のなかで何をしているのかを理解しておきましょう。

また先輩が指示した内容は、「なぜする必要があるのか?」が大事です。

全体像を理解しておくことで、先輩の指示の内容も理解しやすくなります。

また上記の決算の流れで①~③の作業を「会計を固める」と言います。

これは

  • 貸借対照表の残高が正しいことを、根拠書類(請求書等)と突合する
  • 売掛金の帳端や外注費の仕掛計上など、当期の費用収益を対応させる
  • 期中のすべての仕訳について消費税の課否判定に間違いがないか確認する
  • 費用の勘定科目の内容が年間通じて統一されているか確認する
  • 前期、前々期と比較して大きく変動している項目が無いか確認する

などの作業を意味します。

実際、決算作業で時間や労力がかかるのは①~③です。

④と⑤は申告ソフトが計算しますので、慣れると短時間で完成します。

この①~③の会計を固める作業を間違ってしまうと、税務調査で追徴税額が発生したり、銀行融資の際にマイナスになったりします。

会計をいかに早く、正確に固められるようになるか。

もっとさかのぼって、決算申告月ではなく、期中からいかに決算ですべきことをイメージしながら決算の準備を進めていくか。

これが税理士の力量と言われるものになります。

 

税理士事務所の未経験者は何から勉強すればいい?

 

届出書の作成

新人に任される仕事のひとつに「届出書の作成」があります。

会社は税務署や都道府県税事務所、市役所などにたくさんの届出書をします。

特に会社設立直後から数年間は多くの届出書が必要です。

届出書は甘く考えてはいけません。

謝った内容や、誤った届出書を提出すると、取り返しがつかないものもあります。

また提出期限も書類によってバラバラです。

国税庁のHPには届出書のフォーマットや記載方法が詳しく載っています。

届出書の一覧はここにあります。
税務手続に関する主な書類の提出時期の一覧|国税庁

 

いきなり全部を覚えるのは不可能ですが、重要な届出書としては、下記のようなものを優先的に覚えてください。

(消費税関係)

  • 消費税課税事業者選択届出書
  • 消費税課税事業者選択不適用届出書
  • 消費税課税事業者届出書
  • 消費税簡易課税制度選択届出書
  • 消費税簡易課税制度選択不適用届出書

(会社設立関係)

  • 法人設立届出書
  • 青色申告の承認申請書
  • 申告期限の延長の特例の申請書
  • 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
  • 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

(個人事業主の開業関係)

  • 個人事業の開廃業等届出書
  • 所得税の青色申告承認申請書
  • 青色事業専従者給与に関する届出書

(異動関係)

  • 異動届出書
  • 所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書
  • 所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書

これだけでもたくさんありますが、上記の届出書をマスターすれば実務で頻繁に使う届出書の8割はカバーできているはずです。

こういった届出書を作れるようになることは、税理士であれば必須です。

しかし専門学校でも習わないことですので、実務の中でマスターしていくことになります。

担当者デビューに向けて

最後に、これから担当者としてデビューをしていくために必要となる知識を、網羅的に紹介しておきます。

また機会があれば詳細に説明をしたいと思います。

  • 月次会計入力や決算に必要となる資料の把握する
  • ビジネスの全体像やお金の流れを顧問先ごとに把握する
  • 月次報告や決算報告のわかりやすい説明の仕方
  • 経費になるかどうかの判断
  • 年末調整と確定申告の知識
  • 印紙税の基礎知識
  • 銀行融資の制度の内容や査定のポイント
  • 税務調査対策
  • 社会保険の基礎知識

これらが完全にマスターするまでには、2~3年は必要になります。

しかし税理士としては知っておくべき内容ばかりです。

税理士は中小企業の経営者が何でも相談できる専門家です。

広く知識を身に付けて、中小企業の社長がどんな相談をしてきても回答できる人を目指すイメージを持ち続けてください。